顧客管理の基本|CRMで何を記録するか
顧客管理は、お客様の情報とやり取りの記録をまとめて、次の接客や提案に生かす取り組みです。基本は「何のために記録するかを決める」「記録する項目を絞る」「書き方をそろえる」「情報の守り方を決める」の4つです。CRM は、こうした顧客管理を進める考え方や、そのための仕組みを指して使われる言葉です。この記事では、店頭販売や法人向けの営業の担当者に向けて、顧客管理の全体像、記録する項目の一覧、始める手順、道具の比べ方、個人情報保護法などの決まり、よくある失敗、見直しのチェックリストまでを順にまとめます。法令は、一般的な内容に絞って紹介します。

顧客管理とは?CRM とは何が違うのですか?
顧客管理は、お客様の基本情報、購入や取引の履歴、問い合わせや商談などのやり取りを集めて整理し、営業や接客に役立てることです。CRM は、お客様との関係を長く良いものにしていくための考え方や、その考え方を形にした仕組み(ソフトやサービス)を指して使われます。日常では「顧客管理の仕組み」と同じ意味で使われることも多い言葉です。
厚生労働省の職業能力評価基準(百貨店業)では、販売の仕事に求められる能力の一つとして「顧客管理と顧客基盤の拡大・拡充」を挙げ、お客様の基本情報や購入履歴などを集めて管理し、営業活動に生かして、お客様の層を広げ、厚くする能力と説明しています。その知識の項目には CRM や顧客満足、個人情報保護法の知識も並んでいます。顧客管理は、記録の作業というより、お客様との関係を続けるための仕事の一部と考えるとよいでしょう。
顧客管理をすると、何ができるようになりますか?
- 次の接客や商談が良くなる:前回の購入や話した内容を踏まえて、話を始められる
- 担当が替わっても関係が続く:引き継ぎのときに、同じことを聞き直さずにすむ
- 来店や取引が途切れたお客様に気づける:しばらく連絡がないお客様に、案内を送るきっかけになる
- 売れ方の傾向が分かる:どんなお客様に、どの商品が選ばれているかを振り返れる
- 問い合わせや苦情に早く答えられる:これまでの経緯をすぐに確かめられる
店頭と法人の取引では、何が違いますか?
店頭で個人のお客様を相手にする場合は、お客様カードや会員の登録、購入の履歴が中心になります。法人と取引する場合は、会社と担当者の情報に加えて、商談の進み具合、見積り、契約の内容、請求などが中心になります。同じ「顧客管理」でも、記録する項目と使い方が変わるため、まず自分の仕事がどちらに近いかを考えてから項目を決めます。

顧客管理では、何を記録すればよいですか?
記録する項目は、使い道から逆算して決めます。代表的な項目は次のとおりです。
| 区分 | 記録する項目の例 | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 基本情報 | 氏名、会社名、部署、連絡先、連絡してよい方法と時間帯 | 連絡、本人の確認 |
| 属性 | 法人なら業種や規模、個人なら目的に必要な範囲の情報 | 案内の内容を合わせる、傾向を見る |
| 取引や購入の履歴 | 日付、商品やサービス、数量、金額、契約の期間 | 次の提案、買い替えや更新の時期を知る |
| やり取りの記録 | 日時、方法(来店、電話、メール、訪問)、担当者、内容、次の約束 | 引き継ぎ、次の連絡の準備 |
| 好みや要望 | 会話で聞いた好み、困りごと、検討している商品 | 接客や提案の質を上げる |
| 商談の段階(法人) | 初回、提案、見積り、契約、見送りなどの段階と日付 | 進み具合の管理、見通しを立てる |
| 同意と希望 | 案内メールの同意の有無と日付、連絡を控えてほしいという希望 | 決まりに沿った案内、お客様の希望を守る |
| 問い合わせや苦情 | 受けた日、内容、対応、結果 | 同じことの繰り返しを防ぐ、改善に生かす |
職業能力評価基準(百貨店業)では、接客で聞いたお客様の好みや要望をカードの備考欄(メモ欄)に書き、周りと共有することや、カードを整理して、購入が途絶えているお客様と新しいお客様を分けることが、求められる行動の例として挙げられています。
記録しないほうがよい情報は?
- 使い道のない情報:「念のため」と集めた情報は、管理の手間と漏れたときの影響を増やすだけになる
- お客様への評価や憶測:「気難しい」「お金に細かい」など、本人が見たら傷つく書き方はしない。事実と、次に気をつけることを書く
- 要配慮個人情報:人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴など、差別や偏見につながらないよう特に配慮が要る情報は、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに集めてはいけません(個人情報保護法第2条第3項、第20条第2項)
書き方は、どうそろえるとよいですか?
- 会社名は正式な名前で書き、略し方をそろえる(「株式会社」の位置なども決める)
- 日付、電話番号、住所の書き方を決める
- 業種や段階など、分けて数えたい項目は選択肢にする
- やり取りの記録は「いつ、誰が、何を、次に何をするか」の形で書く
- お客様の言葉と、担当者の考えを分けて書く
- 同じお客様を二重に登録しないよう、登録の前に検索する

顧客管理は、どんな手順で始めればよいですか?
- 目的を決める:「来店が途切れたお客様に案内を送る」「担当が替わっても商談を続けられるようにする」など、1〜2文で書く
- 項目を決める:目的に必要な項目だけを選び、必須と任意を分ける
- 道具を選ぶ:お客様の数、使う人数、店頭のレジなどとのつながりで選ぶ
- 入力のルールを決める:いつ(その日のうちに、など)、誰が、どの書き方で入力するかを決める
- 利用目的を示す:お客様カードや入力フォーム、店内の掲示やホームページで、何に使うかを示す
- 守り方を決める:見られる人、持ち出しの決まり、パスワード、印刷物の捨て方を決める
- 定期的に見直す:古くなった情報を直し、使わなくなった情報を消す。使われていない項目も見直す
紙・表計算・CRM、どの道具で管理するとよいですか?
| 道具 | 向いている場面 | 良い点 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|---|
| 紙のお客様カードや台帳 | お客様の数が少ない店、店頭で書いてもらうとき | すぐに始められる。お客様がその場で書ける | 探すのと集計に手間がかかる。鍵のかかる場所での保管と、捨て方の管理が要る |
| 表計算ソフト | 少人数で管理するとき、項目を試しながら決めたいとき | 並べ替えや絞り込みができる。費用をかけずに始めやすい | 複数の人が同時に直すと、どれが最新か分からなくなりやすい。ファイルの持ち出しに気をつける |
| CRM(顧客管理の仕組み) | 担当者が多いとき、やり取りが何回も続くとき、店が複数あるとき | 履歴とやり取りを一つの画面で見られる。見られる人を役割ごとに分けやすい | 導入と毎月の費用、入力の手間がかかる。ルールがないと使われなくなる |
| レジや予約の仕組みの顧客の機能 | 店頭の購入や予約の履歴を中心に見たいとき | 購入の記録が自動で残る。入力の手間が少ない | 商談や相談の記録には向かないことがある。使える項目が限られる |
はじめから高機能な仕組みを入れるより、目的と項目を決めてから道具を選ぶほうが、使われ続けやすくなります。商談で何を聞くかは、コラム「商談のヒアリングシートの作り方」で紹介しています。

顧客管理で気をつけたい法令は?
個人情報保護法
お客様の情報を検索できるように整理したもの(顧客台帳や CRM など)は、個人情報保護法の「個人情報データベース等」にあたり、そこに含まれる情報は「個人データ」として扱われます。顧客管理に関わる主な決まりは次のとおりです(2026年11月時点)。
| 場面 | 主な決まり | 条文 |
|---|---|---|
| 集める前 | 何に使うか(利用目的)をできる限りはっきり決める | 第17条 |
| 集めるとき | うそや不正な方法で集めない。要配慮個人情報は、原則として本人の同意を得て集める | 第20条 |
| 集めるとき | 利用目的を公表しておくか、本人に知らせる。お客様カードやフォームなど書面で直接受け取るときは、あらかじめ利用目的をはっきり示す | 第21条 |
| 使うとき | 本人の同意を得ずに、利用目的の範囲を超えて使わない | 第18条 |
| 管理するとき | 正確で新しい内容に保ち、使う必要がなくなったら遅れずに消すよう努める | 第22条 |
| 管理するとき | 漏れたり、なくなったりしないよう、必要で適切な管理をする。扱う従業者や、作業を任せた先にも必要な監督をする | 第23条〜第25条 |
| 漏れたとき | 個人の権利や利益を害するおそれが大きい一定の場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が求められる | 第26条 |
| 他社に渡すとき | 法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに第三者へ渡さない | 第27条 |
| 本人から求められたとき | 一定の場合に、本人からの開示、訂正、利用の停止などの請求に応じる | 第33条〜第35条 |
案内メールを送るときの特定電子メール法
お客様に、広告や宣伝の目的でメールを送るときは、特定電子メール法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)の決まりがあります(2026年11月時点)。
- あらかじめ送ることに同意した人など、法律で決められた相手にだけ送る(第3条第1項)
- 同意を得たことを示す記録を保存する(第3条第2項)
- 「送らないでほしい」と伝えられたら、その人には送らない(第3条第3項)
- メールには、送る人の氏名や名称、受け取りを断るための連絡先などを正しく表示する(第4条)
顧客管理の項目に「案内メールの同意の有無と日付」「受け取りを断った日」を設けておくと、こうした決まりに沿って送りやすくなります。どの決まりにあたるかは、送る内容や相手によって変わります。詳しくは所管の窓口や専門家にご確認ください。
日々の運用で気をつけること
- 見られる人を、仕事に必要な人に限る
- パスワードを人と共有しない。退職や異動のときは、すぐに使えないようにする
- 顧客の一覧を、個人のパソコンやスマートフォン、私用のメールに移さない
- 印刷した一覧やカードは、使い終わったら決めた方法で捨てる
- 端末をなくしたときに、誰にどう知らせるかを決めておく
- 扱う人に、決まりと注意点を定期的に伝える
イベントのアンケートで集めた情報を顧客管理に使うときの注意は、コラム「催事のアンケートの取り方と個人情報の扱い」で紹介しています。

顧客管理でよくある失敗は?
- 項目を増やしすぎて、入力されなくなる:必須の項目を絞り、入力にかかる時間を短くする
- 書き方が人によってばらばら:書き方の決まりを1枚にまとめ、選択肢を増やす
- 入力して終わり、見返されない:朝の打ち合わせや週ごとの振り返りで、記録を見る時間をつくる
- 同じお客様が二重に登録される:登録の前に検索する決まりにし、定期的に重なりを整理する
- 古い情報のまま使い続ける:連絡先や担当者が変わっていないか、取引のたびに確かめる
- 同意のないアドレスに案内メールを送る:同意の有無を項目にして、送る前に絞り込む
- 辞めた人の利用者の登録が残る:退職や異動の手続きに、利用の停止を組み込む
- 道具を先に決めてしまう:目的と項目が決まる前に仕組みを入れると、使わない機能に費用がかかりやすい
日々のやり取りを記録する書き方は、コラム「販売の日報と報告書の書き方」も参考にしてください。

顧客管理を見直すチェックリスト
| 確認 | 項目 |
|---|---|
| □ | 顧客管理の目的が、1〜2文で書かれている |
| □ | 記録する項目が目的に合っていて、必須と任意が分かれている |
| □ | 書き方の決まり(会社名、日付、選択肢)がまとめてある |
| □ | 利用目的を、カードやフォーム、店内の掲示やホームページで示している |
| □ | 要配慮個人情報や、使い道のない情報を集めていない |
| □ | 見られる人が、仕事に必要な人に限られている |
| □ | 退職や異動のときに、利用を止める手順がある |
| □ | 案内メールの同意と、受け取りを断った記録が残っている |
| □ | 古い情報の更新と、不要になった情報の削除を定期的にしている |
| □ | 漏れたときや、本人から開示などを求められたときの連絡先と手順が決まっている |
| □ | 記録を見返して、接客や提案に生かす場がある |
よくある質問
小さなお店でも、CRM は必要ですか?
お客様の数や使う人数によります。お客様が少なく、担当が一人の店なら、紙のカードや表計算ソフトでも顧客管理はできます。担当者が増えたり、店が複数になったりして、情報の共有や引き継ぎに困るようになったら、CRM を考える目安になります。どの道具でも、目的と項目、守り方を先に決めることが大切です。
お客様カードを書いてもらうときは、何を伝えればよいですか?
何に使うか(利用目的)を、カードに書いておくか、書いてもらう前に示します。たとえば「新商品やイベントのご案内」「ご購入後のお問い合わせへの対応」などです。案内をメールで送る場合は、送ってよいかどうかを選べる欄を設けておくと、同意の記録にもなります。職業能力評価基準(百貨店業)でも、個人情報を集める目的や扱いについて、お客様に適切に説明し、質問に正しく答えることが求められる行動として挙げられています。
名刺の情報も、個人情報になりますか?
名刺には氏名が書かれているため、個人情報にあたります。名刺の情報を顧客管理の仕組みや一覧に入力し、検索できるようにした場合は、個人データとして管理します。名刺を交換した相手に案内メールを送るときは、特定電子メール法の決まりも確かめておきましょう。
「自分の情報を消してほしい」と言われたら、どうすればよいですか?
個人情報保護法では、法律に違反して扱われている場合や、事業者がその情報を使う必要がなくなった場合など、一定の場合に、本人が利用の停止や消去を求められる仕組みがあります。案内の停止を求められたときは、すぐに送るのをやめ、その記録を残します。求めに応じるかどうかの判断や手順は、社内で前もって決めておき、迷うときは所管の窓口や専門家にご確認ください。
営業や販売の進め方を外部と一緒に整えたいときは、営業代行のページで当社の取り組みを紹介しており、ご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。
- 営業・販売の現場でよく使う用語集|意味と使い方をやさしく解説
- 店頭販売の声かけと接客の基本|最初のひと言から説明の順番まで
- 営業代行の料金の決まり方|固定報酬・成果報酬の違いと選び方
- 営業代行の選び方|会社を比べるときに確かめたいこと
- 営業代行と自社営業の違い|向く場面と向かない場面
- 販売代行の契約の確認項目|業務委託契約書で確かめること
- 店頭販売の目標とKPIの決め方|売上を分けて行動の数字にする
- 販売の日報と報告書の書き方|書く項目・例文・注意点
- 接客ロールプレイングのやり方|準備・進め方・振り返り
- 新しい商品を販売する前の商品知識の覚え方|覚える順番と練習
- 接客でよくある質問の答え方とFAQの作り方
- クロスセルとアップセルの進め方|押し売りにならない提案
- 高齢者への接客のポイント|話し方・見せ方・契約の確認
- 外国人のお客様への接客の基本|やさしい日本語と指さし
- 電話でアポイントを取るときの基本|テレアポのコツと流れ
- 法人を訪問する営業のマナー|アポから辞去・お礼まで
- 名刺交換のマナーの基本|渡し方・受け取り方とその後の扱い
- 営業トークの組み立て方|結論から伝える話し方と手順
- 商談のヒアリングシートの作り方|聞く項目と使い方
- 販売チームの育て方|販売員を育成する方法と計画
- 販売スタッフのモチベーションを保つ工夫
催事・イベントの企画・運営、営業代行、店舗運営についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ