クロスセルとアップセルの進め方|押し売りにならない提案

クロスセルは、お客様が選んだ商品と一緒に使う別の商品を提案すること、アップセルは、検討している商品より上の品やプランを提案することです。押し売りにならない進め方の要点は、先にお客様の目的を聞き、その目的に合うものだけを選び、理由と費用と合わない点を添えて一度提案し、断られたら気持ちよく引くことです。この記事では、販売の仕事をする方と販促担当の方に向けて、2つの違い、提案の手順、場面ごとの例、法令で気をつけたいこと、よくある失敗とチェックリストを順にまとめます。

年配の客に商品を見せる店員

クロスセルとアップセルとは?何が違いますか?

どちらも、1回の買い物でお客様の満足と、店の客単価(お客様1人あたりの買上金額)を高めるための提案の方法です。日本政策金融公庫の起業家向けの資料でも、レジで「ご一緒に〇〇はいかがですか」とすすめる方法をクロスセル、買おうとしている商品より一つ上のグレードをすすめる方法をアップセルとして紹介しています。

  • クロスセル:選んだ商品と一緒に使う、別の商品やサービスを提案します。小売の現場では「関連販売」とも呼びます。たとえば、スマートフォンと一緒に保護フィルムやケースを案内することです
  • アップセル:検討している商品より、容量や機能が上の商品やプランを提案します。たとえば、写真をたくさん撮る方に、保存できる量の多い機種を案内することです

客単価は「商品の単価×買上点数」に分けて考えられます。クロスセルは買上点数に、アップセルは商品の単価に関わります。言葉の意味は、コラム「営業・販売の現場でよく使う用語集」でも紹介しています。

大切なのは、どちらも「お客様の目的を、よりよく満たすための提案」だという点です。目的に関係のない商品を勧めたり、必要以上の上位品を勧めたりすると、押し売りと受け取られます。売上の数字だけを目的にすると、お客様の信頼を失い、次の来店につながりません。

店のカウンターで客と話す店員

提案は、どんな手順で進めますか?

  1. 目的を聞く:「どんな場面でお使いですか」「今、困っていることはありますか」と聞き、使う場面、使う人、予算を確かめます。提案の材料は、すべてこの段階で集めます
  2. 本命の商品を決めてもらう:お客様が最初に探していた商品の説明を、先に終えます。本命が決まる前に別の商品を勧めると、話が散らかり、迷いが増えます
  3. 合うものを1〜2点に絞る:聞いた目的に合うものだけを選びます。目的とのつながりを、自分の言葉で説明できないものは勧めません
  4. 理由、費用、合わない点を伝える:「〇〇とうかがったので、こちらが合うと思います」と理由を言い、追加でかかる金額を示します。毎月かかる費用や、合わない場合があることも伝えます
  5. 決めてもらう:「ご一緒にいかがですか」と一度だけ聞き、お客様に選んでもらいます。断られたら「承知しました」と受け止め、本命の手続きに戻ります
  6. 会計の前に合計を確かめる:何を買い、合計でいくらになるかを、お客様と一緒に確かめます。毎月の費用があるものは、その額も確かめます

提案のタイミング

アップセルは、お客様が商品を比べて選んでいる途中が向いています。選び終わったあとに上位品を勧めると、決めたことを否定されたように感じる方もいます。クロスセルは、本命が決まったあとが向いています。決めた商品を「もっと使いやすくするもの」として紹介すると、自然な流れになります。

言い方の例

  • 「お子さんが使うとのことなので、落としたときに備えるケースもございます。お値段は〇〇円です」
  • 「写真をたくさん撮るとうかがいました。今のお選びの機種だと、保存できる量が足りなくなるかもしれません。一つ上の容量だと、差額は〇〇円です」
  • 「よろしければ、合わせて使える物をご紹介しましょうか。必要なければ、このままお手続きに進みます」

断られたときの受け止め方

提案を断られるのは、よくあることです。断られたこと自体を、接客の失敗と考える必要はありません。お客様が自分で選べたのなら、その接客は役目を果たしています。断られたときは、次のように対応します。

  • 「承知しました」「かしこまりました」と短く受け止め、表情や声の調子を変えない
  • 理由を聞き出そうとしない。お客様から話してくれたときだけ、耳を傾ける
  • すぐに本命の手続きに戻り、待たせない
  • 「必要になったら、こちらの売場にございます」など、あとで選べる場所だけを伝える

断られた理由が分かったときは、日報や記録に残しておくと、次の提案の材料になります。記録の書き方は、コラム「販売の日報と報告書の書き方」で紹介しています。

なお、言い方の例の3つ目のように、提案の前に「聞いてもよいか」を確かめる言い方は、お客様が断りやすく、押し売りの印象を与えにくくなります。声かけと説明の基本は、コラム「店頭販売の声かけと接客の基本」で紹介しています。

買い物袋を客に手渡すレジの店員

クロスセルとアップセルを、場面ごとに比べると?

2つの方法の違いを、表で比べます。

比べる点 クロスセル アップセル
提案するもの 一緒に使う別の商品やサービス 容量や機能が上の商品やプラン
客単価のどこに効くか 買上点数 商品の単価
向くタイミング 本命の商品が決まったあと 商品を比べて選んでいる途中
お客様の利点 別に買いに行く手間が減る。すぐに使い始められる 使う場面に合わない商品を選ばずに済む
押し売りに見えやすい場面 目的と関係のない商品を、いくつも勧める 予算を超える上位品を、何度も勧める
伝え忘れやすいこと 追加の合計金額、毎月の費用、やめ方 差額、上位にしなくても足りる場合があること

扱う商品によって、提案の例は次のように変わります。どれも、お客様の目的を聞いたうえで、合う場合だけ提案するものです。

売場 クロスセルの例 アップセルの例 先に聞きたいこと
スマートフォン 保護フィルム、ケース、充電器 保存できる量の多い機種、データ量の多いプラン 写真や動画を撮る量、外での使い方
衣料品 合わせやすい小物、手入れ用品 素材や仕立ての違う上位の品 着る場面、手持ちの服、手入れにかけられる手間
食品の催事 一緒に食べる品、持ち帰り用の保冷の袋 量の多い詰め合わせ 食べる人数、持ち帰りにかかる時間、贈り物かどうか
家電 交換用の部品や消耗品 機能の多い上位の型 使う頻度、置く場所の広さ
暮らしのサービス 関連するオプション 回数や容量の多いコース 今の使い方、続けられる予算
年配の客の買い物を手伝う店員

押し売りにならないために、気をつけることは?

お客様に不利なことも伝える

消費者契約法では、事業者が勧誘のときに大切な事項について事実と違うことを告げ、お客様がそれを信じて契約した場合、お客様は契約を取り消せるとしています(第4条第1項第1号)。また、良い点だけを伝えて、不利になる事実をわざと、または大きな不注意で伝えなかった場合も、取り消しの対象になることがあります(同条第2項)。追加の提案をするときは、毎月の費用、途中でやめるときの条件、上位品にしなくても足りる場合があることも伝えます。

量を勧めすぎない

同じ法律では、事業者が、お客様にとって通常の量を著しく超えると知りながら勧誘し、契約した場合も、取り消せるとしています。すでに同じ種類の契約をしていて、合わせると通常の量を著しく超える場合も同じです(第4条第4項)。また、特定商取引法では、訪問販売で通常必要とされる量を著しく超える契約をした場合、契約から1年間は申込みの撤回や契約の解除ができるとされています(第9条の2、特別の事情がある場合を除く)。「多めに買っておくと安心です」といった勧め方には注意します。

帰りたいお客様を引き止めない

勧誘している場所から帰りたいという意思をお客様が示したのに、帰らせないで契約させた場合も、取り消しの対象になります(消費者契約法第4条第3項第2号)。断られたら引くことは、接客のマナーであるだけでなく、法令の上でも大切です。

通信サービスには、別の決まりもある

携帯電話などの通信サービスでは、電気通信事業法で、契約の前に料金などの提供条件の概要を説明すること(第26条)、契約が成立したら書面を渡すこと(第26条の2)が決められています。勧誘を受けた方が契約しない意思を示したのに勧誘を続けることも、禁じられています(第27条の2第3号)。対象のサービスでは、書面を受け取った日などから8日を経過するまで、書面で契約を解除できる仕組みもあります(第26条の3、2026年11月時点)。オプションを勧めるときは、無料の期間が終わったあとの料金と、やめ方も伝えましょう。

セット割引やおまけの表示

景品表示法は、価格などの取引の条件を、実際より著しく有利に見せる表示を禁じています(第5条第2号)。「セットでお得」と表示するときは、何と比べてどれだけ安いのかを、事実どおりに示します。比べる価格の示し方は、コラム「催事の価格表示で気をつけること」で紹介しています。また、買った方全員に渡すおまけ(総付景品)には上限があり、取引の価額が1,000円未満なら200円、1,000円以上なら取引の価額の10分の2までとされています(2026年11月時点)。

法令の内容は一般的な説明です。扱う商品や契約に当てはまるかどうかは、詳しくは所管の窓口や専門家にご確認ください。

レジでカードを渡して支払う手元

よくある失敗は?

  • 本命より先に勧める:お客様が探している商品の説明が終わる前に、別の商品を勧めてしまう。お客様は自分の話を聞いてもらえていないと感じます
  • 何でも勧める:売場にある関連商品を次々に紹介する。選ぶ手間が増え、本命の購入まで迷わせてしまいます
  • 値段を言わない:「こちらもおすすめです」とだけ言い、追加の金額を伝えない。会計のときに合計を見て驚かれます
  • 断られても続ける:一度断られた商品を、言い方を変えて何度も勧める。次の来店が遠のきます
  • 店の都合が見える:「今月はこれを売るように言われていて」など、店の目標を理由にする。お客様の利点が伝わりません
  • 上位品だけを勧める:お客様の使い方なら今の商品で足りるのに、上位品を勧める。あとで「必要なかった」と思われます
  • あとで「聞いていない」と言われる:毎月の費用や、やめ方の説明を省いた。苦情や解約につながります

提案の数字を目標にするときは、セットで買った割合だけでなく、そのあとの問い合わせや返品の数も一緒に見ると、無理な勧め方に気づけます。目標の立て方は、コラム「店頭販売の目標とKPIの決め方」で紹介しています。

決済端末と紙袋が置かれたカウンター

提案の前に確かめるチェックリスト

  • お客様の目的(使う場面、使う人、予算)を聞いた
  • 本命の商品の説明を、先に終えた
  • 提案するものを、目的に合う1〜2点に絞った
  • 目的とのつながりを、自分の言葉で説明できる
  • 追加の金額と、毎月の費用があるかを伝える準備ができている
  • 合わない場合や、上位品にしなくても足りる場合も伝える
  • 無料の期間があるものは、終わったあとの料金とやめ方を伝える
  • 提案は一度にして、断られたら引く
  • 会計の前に、買う物と合計の金額をお客様と確かめる
  • セット割引やおまけの表示が、事実どおりになっている

よくある質問

クロスセルとアップセルは、どちらを先に勧めますか?

アップセルを先にすると、流れが自然になります。アップセルは商品を選んでいる途中が向いていて、クロスセルは選ぶ商品が決まったあとが向いているためです。ただし、お客様の目的に合わないなら、どちらも勧めなくてかまいません。

1回の接客で、いくつまで勧めてよいですか?

決まった数はありませんが、目的に合うものを1〜2点に絞ると、お客様が選びやすくなります。たくさん紹介したいときは、「ほかにも合わせて使える物があります。よろしければ一覧をお渡しします」と、選ぶかどうかをお客様に任せます。

断られたあと、もう一度勧めてもよいですか?

同じ商品を、その場で言い方を変えて勧め直すのは避けます。お客様から「やっぱり気になる」と言われたときや、話を聞くうちに新しい困りごとが分かったときは、その困りごとに合う提案として、あらためて伝えます。

提案がうまくいかないときは、何を見直せばよいですか?

提案の言葉を変える前に、その前の聞き方を見直します。使う場面や困りごとを聞けていれば、「〇〇とうかがったので」と、提案の理由を具体的に言えます。反対に、目的を聞かずに勧めると、どんな言葉でも押し売りに聞こえやすくなります。聞き方の練習には、コラム「商談のヒアリングシートの作り方」や「接客ロールプレイングのやり方」も役立ちます。

ネットショップや催事でも、同じ考え方で提案できますか?

はい、考え方は同じです。ネットショップでは、購入の前後に「この商品と一緒に選ばれている商品」を画面で見せる方法がよく使われます。画面の提案でも、選んだ商品とのつながりが分かる物に絞り、追加の金額がすぐ分かるようにします。催事では、お客様が立ち寄る時間が短いため、提案は1点に絞り、実物を見せながら短く伝えると、選んでもらいやすくなります。

店頭での提案や販売を外部に任せたいときは、営業代行のページで当社の取り組みを紹介しており、ご相談はお問い合わせフォームから受け付けています。

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